長江研究室では「持続可能な社会のための交通システムの提案とその管理・運用方法の設計」を基本テーマとして,以下の6つの研究課題に取り組んでいます.


1)災害に強く信頼性の高い交通ネットワークの実現

現代のビジネスの殆どは,交通ネットワークにその基盤を置いています.そのため,交通ネットワークのサービス水準(e.g. 所要時間や到達可能性)が不確実に変動することは望ましくありません.こうしたサービス水準の変動は,気象条件・災害・事故などの外的要因だけでなく,個々の利用者の行動変化(e.g. たまたま寝坊した,雨なので経路を変えた)などの内的要因によっても引き起こされます.交通ネットワークの管理者は,こうした要因を考慮しながら,限られた資源を活用して信頼性の高いサービスを供給しなければなりません.

本研究テーマでは,こうした「交通ネットワークの信頼性評価やその改善問題」のための定量的分析手法を開発します.

関連分野:交通工学,土木計画,防災計画,変分不等式/相補性理論,ネットワーク科学,グラフ理論,組み合わせ/離散最適化


2) 利用しやすく運用しやすいスマートな次世代公共交通システムの提案

自家用車によるエネルギー消費は運輸部門における消費量の約6割を占めており,その多くがガソリンを源としています.低炭素社会を実現するには,自家用車から公共交通へのシフト,とりわけ,鉄道網が充分に発達していない地方都市では路線バスの高度活用が鍵となります.しかし,自家用車よりも所要時間がかかる上,雨や雪などで遅れたり,乗るまでにバス停で待たされる,といった理由で敬遠されがちです.多くの都市では自家用車とバスが道路を共有するため,自家用車の利用が減らなければバスの定時性・利便性を向上させることは困難です.

本研究テーマでは,こうした「自家用車との競合」を考慮した上で「情報通信技術を活用した新しい公共交通システム」を提案し,既存の交通需要管理(TDM: transportation demand management)政策と組み合わせながら,適切な料金・時刻表の設計手法を開発します.

関連分野:交通工学,土木計画,交通経済学,ゲーム理論,最適化理論


3) 効率的なモビリティ・シェアリングのための利用価格費用分担スキームの開発

近年,国内外の多くの都市で自転車やクルマを共有するモビリティ・シェアリングが導入されています.レンタサイクルやレンタカーのように対人カウンターで貸出・返却するのではなく,ポートや駐車場に停めてある自転車やクルマに直接アクセスできる手軽さが魅力的です.借りた場所と違う場所に返却する「乗り捨て」が可能なサービスも増えてきました.今後,自動運転技術が普及すれば「どこへでも迎えに来て,どこででも乗り捨てられる」システムの実現も夢ではありません.一方で,利用者が増えると「使いたい時に近くのポートに自転車/クルマが無い」「行き先のポート/駐車場の空きが無い」といった需給ミスマッチが生じます.

本研究では,こうした共有モビリティを「資源」と見なし,それを最大限活用するために,「需要過多なら大きければ価格が上がり,供給過多ながら価格が下がる」「需給がマッチするとき利用価値が最大となる」という競争市場メカニズムを活用したのスキーム(枠組&計画)を開発します.

関連分野:交通計画,ミクロ経済学,メカニズム設計/オークション理論,最適化理論


4) 「知的な個人の集合体」としての社会経済システムの動学分析

社会とは「個々の情報に基づいて行動する多数の主体(エージェント)」で構成される複雑な系(システム)です.そこでは,個々の主体のミクロな行動の総和が系全体のマクロな振る舞いを決定づけ,系のマクロな振る舞いが個々の主体のミクロな行動に影響を与えます.このような複雑なシステムに対しては,系そのものが知性・意思をもつかのように振る舞うことや,組織や慣習が自己組織的に創発することが知られています.

本研究テーマでは,こうした社会経済システムの複雑な動的な振る舞いや創発現象を「ミクロでもマクロでもない「メゾ」な視点から分析する」ための理論の構築を目指します.

関連分野:進化ゲーム理論,population game,マルチ・エージェント・システム,複雑系,ネットワーク科学,集計とゆらぎの経済学,統計力学,数理生態学


5) 交通ビッグデータを活用した渋滞の時空間進展メカニズムの解明と制御

情報通信技術やセンサー技術の近年の進展は,道路交通の状態(流量・密度など)や個々の利用者の状況(位置・方向・加速度など)を高頻度・広範囲・長期間にわたって大量に取得・蓄積することを可能にしました.こうした交通ビッグデータは,交通制御,情報提供,災害対策など多方面での活用が期待されています.

本研究では,実際に観測された交通情報を用いて,交通渋滞が時間的・空間的にどのように進展していくのかを把握し,そのメカニズムを解明します.

関連分野:交通工学,空間統計学,地理情報システム(GIS),データベース管理,分散データ処理,グラフ理論


6) 動学的不確実性下でのプロジェクト・マネジメントと価格評価

あらゆるビジネスは複雑な意思決定の連鎖です.プロジェクト・マネージャーは,為替・株価・製品需要などの社会経済状態の確率動学的な変化に応じて,より望ましいキャッシュ・フローを達成するような意思決定を行なわなければなりません.このキャッシュ・フローの改善はプロジェクトの資産としての価値を高めます.そのため,(買収・売却などの際の)プロジェクトの取引価格を評価することと,意思決定問題と解くことは全く同じです.

本研究テーマでは,こうした動学的不確実性の下で「プロジェクトに対する最適意思決定戦略」と「その意思決定の下でのプロジェクトの適切な取引価格」を定量的に評価するための方法論の確立を目的としています.

関連分野:金融工学,資産評価理論,確率システム制御理論,変分不等式/相補性理論